はじめに
熱中症は危険なイメージがあるけれど、実際に自分や周りの人がかかったときにはどう対応すればいいのだろう…そんな方も多いのではないでしょうか。熱中症対策は、夏を安全に過ごすための第一歩です。
今回は、熱中症の具体的な症状や救急車を呼ぶべきタイミングについて解説していきます。
応急処置の方法や予防策も紹介するので、ぜひご一読ください。
熱中症とは?
熱中症は、高い気温や湿度が原因で体温をうまく調節できない状態です。体内の水分・塩分バランスが崩れ、さまざまな症状が現れます。
一言で熱中症といっても症状や対処法はそれぞれ異なるため、厚生労働省では重症度ごとに3段階に区分しています。まずは自身の症状がどれに当てはまるのかチェックし、適切な対処法を把握しましょう。
熱中症の分類
重症度Ⅰ度(軽症)の場合は「熱失神」と「熱けいれん」が起こります。熱失神とは、体温を下げるために皮膚血管の拡張反応が生じた際、脳への血流が一時的に減少して立ちくらみが生じる状態を指します。また熱けいれんとは、汗をかいて失われた塩分を補給できない場合に血中の塩分濃度が低下し、筋肉の痛みやこむら返りが起こる状態です。
重症度Ⅱ度(中等症)の場合は「熱疲労」が起こります。熱疲労とは、大量に汗をかいて水分補給が追いつかないと起こる脱水症状のことです。処置を誤ると重症化のリスクが高まるため、慎重に行う必要があります。
重症度Ⅲ度(重症)の場合は「熱射病」が起こります。熱射病とは、脱水状態で体温を下げられなくなった結果、中枢機能や臓器に異常をきたしている状態を指します。
参考:厚生労働省「令和3年 職場における熱中症予防に用いる機器の適正な使用法等周知事業、熱中症が発生する原理と発生時の措置」
【重症度別】熱中症への対処法
重症度Ⅰ度(軽症)では、まず室内外を問わず涼しい場所に移動して安静にしましょう。そして、太い血管が流れている場所を冷やして体温を下げる「体表冷却」を行います。その後は経口補水液などで水分・塩分を補給しましょう。
本人の意識がはっきりしており、応急処置によって徐々に症状が改善していれば、回復するまで見守りながら対応しましょう。この段階で適切な処置ができれば、多くの場合は問題なく回復します。しかし、処置後しばらくしても症状が改善しない場合は、状況を知っている人が付き添い医療機関を受診しましょう。
重症度Ⅱ度の場合もⅠ度と同じく、涼しい場所への移動や体表冷却を行い、水分・塩分補給を促しましょう。
ただし頭痛や吐き気、倦怠感があるときは深部体温の上昇によって脳や消化器官、肝臓に影響が出ている可能性があります。そのため、症状が改善した後でも念のため医療機関を受診しましょう。
重症度Ⅲ度になると、呼びかけても反応しなかったり返答がおかしかったりと明らかな異変が見られます。
すぐに119番で救急車を要請し、待機中は涼しい場所への移動や体表冷却を行いましょう。意識障害が見られる場合、無理に水を飲ませると誤嚥性肺炎を引き起こす恐れがあるため避けましょう。
参考:厚生労働省「令和3年 職場における熱中症予防に用いる機器の適正な使用法等周知事業、熱中症が発生する原理と発生時の措置」
救急車を呼んだ方がいい場合は?
熱中症の症状によっては、応急処置よりも最優先で119番通報し、救急車を要請する必要があります。すぐに119番で救急車を呼ぶべきか判断する際のポイントや、救急車が来るまでにすべきことを紹介します。
救急車を呼んだ方がいいパターン
すぐに救急車を呼んだ方がいい場合もあります。処置が遅くなると、中枢神経や肝臓、腎臓や心臓などさまざまな臓器に後遺症が生じる恐れがあります。以下のパターンに当てはまれば、すぐに119番通報をしましょう。
● 声をかけても反応がない、反応が薄い
● ひきつけを起こしている
● 返答がおかしい
● 普段通りに歩けない
● 熱がこもり体温が異常に高い
● 意識障害や吐き気で水分補給ができない
また、もし上記のような症状がなくても、応急処置によって症状が改善しなければ、救急外来のある近隣の内科や休日・夜間診療所などを受診しましょう。また、救急搬送すべきか判断に迷ったら「#7119」で救急安心センター事業に連絡してみましょう。電話を通じて医師や看護師といった専門家が症状を把握し、救急車の必要性や受診すべき医療機関などを案内してくれます。
※救急安心センターは地域によっては利用できない点に注意が必要です。
救急車が来る前に準備すること
救急車で搬送する場合、検査や治療を迅速に行うため発症時の状況を知っている人が同行します。医療機関ではおもに以下の項目を確認するため、救急車が到着するまでになるべく情報を整理しておきましょう。また、発症者の氏名や生年月日のわかるものや緊急連絡先、荷物もまとめておきます。
<主に医療機関が知りたいこと>
医療機関での治療方法
医療機関では、全身を冷却するため「体表冷却」と「体内冷却」の2種類を行います。体内冷却とは、カテーテルを使って胃や膀胱に管を入れ、冷却した生理食塩水を入れたり出したりして血液を冷やす方法です。血液透析によって体外に出た血液を物理的に冷やし、体内に戻す方法もあります。
また、脱水症状を改善するため「水分や電解質の補給」も行います。生理食塩水または乳酸リンゲル液を点滴で投与し、不足した水分や塩分を補います。さらに、症状に応じて抗けいれん剤や筋弛緩剤を使用し、人工呼吸器を用いた呼吸管理や透析療法も行います。
熱中症を日ごろから予防するためには?
熱中症は、暑さへの耐性を高めたり、健康状態を整えたりと、日ごろからきちんと対策すれば予防が可能です。
予防方法1.暑さへの耐性を高める
熱中症予防のキーワードとして、体が暑さに慣れる状態を指す「暑熱順化」があります。暑熱順化が進めば、運動や仕事で体を動かしたときの発汗量や皮膚血流量が増加し、うまく体温調節ができるようになります。結果、体内に熱がこもりにくくなり熱中症予防につながるでしょう。
暑熱順化に有効な方法には、以下のような方法が有効です。
● ウォーキング:1回30分を週5日程度
● ジョギング:1回15分を週5日程度
● 筋トレやストレッチ:1回30分を週5日~毎日
※暑熱順化には一般的に数日から2週間程度かかり、個人差があります。
予防方法2.健康状態を整える
睡眠不足や二日酔いなどの状態で汗をかくと、通常よりも脱水状態や体温調節機能の低下につながりやすく、熱中症になる可能性が高くなります。日ごろから適切な食事や十分な睡眠をとることが、熱中症予防になります。
運動や仕事をはじめる前に、以下の内容を満たしているかをチェックしましょう。
● 十分な睡眠がとれている
● 水分や塩分、糖質のバランスがとれた食事をしている
● 二日酔いで脱水状態になっていない
● 頭痛や吐き気など熱中症の初期症状が現れていない
夏は、夜間になっても気温が下がらず寝つきにくくなるため、寝室を涼しくしたり通気性のよい寝具を使ったりと、良質な睡眠がとれるように工夫しましょう。
熱中症に特化した保険がある
屋外で運動・仕事をする方だけでなく、水分補給ができない環境や室温・湿度の高い環境など屋内で過ごす方も、熱中症を発症するリスクがあります。熱中症になると、仕事に支障が出たり後遺症が生じたりする可能性もあるでしょう。
昨今は、熱中症による点滴注射・入院をサポートする、熱中症に特化した保険も登場しています。熱中症リスクが高まる時期だけ加入できるため、一つの対策として検討してみてもよいでしょう。
まとめ

熱中症は、重症度に応じた適切な対処が必要です。
応急処置の方法や救急車を呼んだ方がいい場合などは、必要なときにすぐ確認できるようにしておくのがおすすめです。とはいえ、熱中症にはかからないのが一番です。暑さに慣れるよう運動を習慣化したり健康管理に気をつけたりと、日々の対策で熱中症を予防し、暑い季節を乗り切りましょう。
記事監修者
田嶋 美裕
循環器内科医。狭心症、心筋梗塞、心不全、不整脈などの循環器疾患のほか、高血圧、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病全般の治療に携わる。
日本循環器学会専門医
日本内科学会認定内科医
※ この記事は、熱中症ナビ編集部が取材をもとに、制作したものです。
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